本の感想の感想

読書の後の備忘録

「蜜蜂と遠雷」の感想・書評

蜜蜂と遠雷

 85点

文句なしの傑作。

つい最近読んだ恩田氏の作品がつまらなかったので、期待していなかったのだが、とんでもない。

一生に一度こういう作品を世に出せれば、もういいんじゃないかと思うほど。

「文章で音楽を奏でる」

こんなこと、並大抵ではできない。たまに音楽鑑賞の批評などを読むが、音楽を知らないものにとってはさっぱりだ。それを恩田氏はやってのけた。読むだけで音楽が頭に響くようだった。

「才能を見せる」

この本は、音楽コンクールの審査を描いたものだ。そのコンクールに、亡くなった著名音楽家の秘蔵っ子が出る。その子が悪魔的な演奏をして、話題になる・・・そこから始まる物語だ。そのコンクールにおける才能のきらめき、それを見事に描き出している。

「こころをふるわせる」

本当におもしろい本を読むとき、自分が本の中に入り込みそうになっているのを感じる。同時に、頭の後ろがしびれるような、開かれているような、そんな感覚になる。この本は、そんな感覚を与え、読者の心を揺さぶる。

この本を読んで、三つ決めたことがある。

平均律クラヴィーア曲集第1巻第2番を聞くこと

②ピアノコンクールを聞きに行くこと

③楽器を再開すること

 

最後に心震わされたシーン(言葉)を二つ挙げる。

 一つは、「アマとプロの違いは、一音における情報量の差である」という言葉。

もう一つは、退屈な曲ね、等と言われた登場人物の一人が、「それは僕の音楽がいけないんだ、曲は悪くない」といったシーン。

これだけでは伝わらないと思うが、このシーンは本当に今でも泣きそうになるほどいい言葉だと思った。

自分の才能を信じ、でも自分の才能を疑い、そういう人が、曲を悪く言われた。そのとき、彼は曲に対する曇りのない尊敬を述べ、自分の音楽に対する反省を述べた。決然と。その言い方も、本当に実感を込めて。

ついでにいえば、その彼は、コンクールである賞をとる。彼だからこそ、と思う。

感想の感想

「普段からクラシックを聞くことにさせられてしまった、至高の本です。」

→聞くではもはや物足りない。私は、演奏したい、そう思わせられた。

「クラシックに詳しくない私でも躍動感を感じました。名作です。皆さんにお勧めしたい。」

→文字から音楽の躍動感を感じさせる・・・信じられない作家だ

「ホフマンの音楽性とは正反対ということがなぜそこまでの怒りにつながるのかが伝わって来ず、三枝子の独り相撲に鼻白んでしまう。

・・・他のレビューで一色まことの漫画「ピアノの森」との比較がされていたので読んでみたが、同じくピアノコンクールを扱っていても、人物造形も曲の解釈も意表を突く奏法もストーリーの厚みも、すべてが「ピアノの森」の方が上回っており、この作品を読んだ記憶は軽く蹴散らされてしまった。
残念だが「ピアノの森」と比べると本作は凡作と言わざるを得ない。」

→確かに、 三枝子の怒りは不自然であった。ただ、コンテスタントの方に心が奪われ、その不自然さは気にならなくなってしまった。

ピアノの森」・・・聞いたこともない漫画だが、ぜひ読んでみたい。

曲の解釈、人物造形、この辺りは私は評価ができない(苦手)なところなので、何とも言えない。

「著者の恩田さんの作品が好きで、過去の作品も全て読んでいますが、久しぶりの傑作でした。
時間を忘れ、あっという間の500ページでした。
文章を読んでいるだけで、音楽が聞こえてくるような素晴らしい作品でした。」

→全く同感。ただ、「久しぶりに傑作でした」というところはちょっと笑ってしまうが。